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東京家庭裁判所 平成10年(少)1894号 決定

少年 B・K子(昭和58.8.13生)

主文

少年を児童自立支援施設に送致する。

理由

(非行事実)

第1  少年は、A、B子、Cと共謀の上、平成9年9月23日午前5時ころ、東京都葛飾区○○×丁目××番先路上において、D所有の原動機付自転車1台(時価7万円相当)を窃取した。

第2  少年は、下記1、2のとおり、保護者の正当な監督に服さない性癖を有し、正当な理由がなく家庭に寄り付かず、犯罪性のある人若しくは不道徳な人と交際し、その性格、環境に照らし、将来窃盗、道路交通法違反等の犯罪を犯すおそれがある。

1  小学校3年生のころから母親の現金持出を始め、一時期は治まったかに見えたが、中学校内の不良集団「○○」に加入した平成8年の夏休みころから持出額が多くなり、無断外泊、万引き、恐喝などを行ない、平成9年9月5日ころから、毎日のように夜遊びをしたり、第1の非行に及ぶなどした結果、同月25日、保護者の依頼により児童相談所の一時保護所に入所することになり、同年10月22日に退所したものの、その直後から再び生活を乱し、母親のキャッシュカードを持出し夜遊び、怠学を続けた。

2  平成9年12月17日、第1及び第2の1の非行事実により、当裁判所において在宅試験観察決定を受け学校生活に戻ったが、平成10年1月20日ころからは遅刻が増加するなどの怠学傾向が現れ、同年2月26、7日には外泊するなど生活も乱れ、調査官面接にも出頭しなかったり、同年4月6日の始業式に欠席したほか、同月18日からは不登校を続け、不良交遊を継続する中で家からの金の持出し、喧嘩等の問題行動を起こした。

(法令の適用)

第1について 刑法60条、235条

第2について 少年法3条1項3号本文、同号イ、ロ、ハ

なお、当裁判所は、試験観察中の少年が(非行事実)第2の2のぐ犯行状を示すに至ったため、新たな少年のぐ犯行状を手続的に明らかにし、その行状に対する少年の弁解を聴取し、併せてそのぐ犯行状から構成されるぐ犯事由等から展望的に認められるぐ犯性をも加味した要保護性についての調査・鑑別を改めて行う必要があると判断し、第2の2の事実を中心として構成されたぐ犯事実について調査官報告による立件手続を経て2度目の観護措置をとった(ちなみに、当初の鑑別判定は在宅保護《保護観察》であったが、2度目の鑑別判定は収容保護《児童自立支援施設》である。)。しかしながら、本件第2の1と2とのぐ犯行状相互の関係からすると、最終審判を行うにあたって、保護処分の要否及びその内容を判断するための少年の要保護性を判断する前提となる非行事実の認定に際しては、これまでに明らかとなったぐ犯行状を全体としてとらえ、これにより構成されるぐ犯事由から、審判時点において、展望的に認められるぐ犯性を問題とすることが、ぐ犯性を中心的要素とするぐ犯の本質(ぐ犯事由は、ぐ犯性の認定が恣意的になされることがないよう人権保障の観点から類型化された、ぐ犯行状の認定に資するための操作概念である。)に適合すると考えられるから、ぐ犯に関する本件非行事実としては、第2の1、2を全体としてとらえて一つのぐ犯事実と認定したものである。

(処遇の理由)

少年は、慢性疾患により病弱な母親と、暴力団構成員であった父親との間の長女として出生した。少年自身も病弱であったが、比較的順調に発育し、小学校低学年のころは家事を手伝うなど特に問題行動はなかったものの、小学校3年生のころからは母親の財布から金を持ちだすようになり、5年生のころからは髪の毛を染めたり、母の衣服や貴金属を持ちだすようになった。また、3年先輩にあたる地域の不良E子らに目をつけられ、中学に入学すると、同女らの組織する女子不良グループに誘われるようになり、平成8年7月末には、不良グループ「○○」に加入し、(非行事実)第2の1のぐ犯行状に及んで、平成9年11月21日、ぐ犯事件により観護措置が取られた。そして、少年は、同年12月17日、在宅試験観察となったが、そのころには、少年の妹も家庭内暴力に及んだり無断外泊をするなど家庭内が安定せず、母親が情緒不安定になることによる少年への影響が懸念される状況にあったところ、平成10年1月には調査官との約束事項を破り無断外泊をし、(非行事実)第2の2のぐ犯行状に及ぶなどしたため、調査官の報告によりぐ犯立件がなされ、その事実により、同年5月19日、観護措置が取られた。

このように、不安定な家庭状況の中、同年3月16日に、父母は少年の親権者を父、妹の親権者を母として協議離婚をし、母親と妹とは家を出たが、まもなく妹は父方に戻ってきて3人暮らしとなったものの、父親は夜勤のため家を空けることもあって少年を監督できる状況にはなく、少年は母との共同生活を望んでもいるが、母親は、少年が妹のように母方で安定できずすぐ飛び出してしまうのではないかと懸念し、指導への自信を喪失しており、矯正施設での指導を望んでいる。したがって、これらの事情を考慮すると、この際、少年を家庭的で落ち着いた生活を送れる施設に収容して心身の安定を図り、基本的生活習慣を身につけさせるとともに、非行を起こさずに安定した生活を送れるよう指導することが必要である。

よって、少年法24条1項2号により少年を児童自立支援施設に送致することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 古田浩)

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